酒場紀行 vol.10
クアラルンプール EQ Kuala Lampur
2025年10月25日(土)高市新総裁がASEAN出席のため、政府専用機(B-777)でマレーシアに向けて羽田を飛び立った。私は先月、9月11日の午前、成田空港を出発し、約7時間半のフライトを経て、マレーシア・クアラルンプール国際空港に降り立っていた。露の輸出に向けた可能性を確認するためだった。
マレーシアに入国する場合、渡航3日前からMDAC(マレーシア・デジタル・アライバル・カード)をオンライン申請する必要がある。そのため、マレーシアの入国審査は無人レーンを通り、パスポートを自動ゲートにかざすだけでスムースに入国できた。出国も入国も係官との接触は無かった。バゲージもすぐ受け取ることができた。頭にスカーフを覆う女性がたくさんいる。イスラム教信者が多い国に来たことを実感した。湿度を含んだ熱気が肌にまとわりつく。空港からホテルまではタクシーで2時間余り。途中、渋滞で車が止まるたび、窓の外に広がる異国の景色を眺めた。高層ビル群の合間に広がる緑、鮮やかなモスクのドーム、そして時折聞こえるコーランの響き。どこか懐かしくも新しい街の匂いがした。

到着したホテルは、クアラルンプールでも屈指の高級ホテル「EQ Kuala Lampur」。エントランス前の駐車場には高級車が並び、自分が少し場違いに見えた。フロントでチェックインの際、スタッフから一枚のカードを手渡された。差出人は「Namiko.N」。ホテルのマネージャーからだった。カードには日本語で丁寧な挨拶が書かれていた。異国の地で受け取った日本語の温もりが、旅の疲れをすっと和らげてくれた。案内された46階の部屋は広く、モダンで洗練された空間だった。窓の外にはきらめく高層ビル群の灯り。異国の夜景を眺めながら、胸の奥に静かな高揚を感じた。翌日は早朝から予定があり、旅の疲れを癒すようにゆっくりバスタブに浸かった。Namikoさんにお礼メールをしてベッドに入った。

翌日、予定を終え夕方ホテルに戻り、フロントでマネージャーのNamikoさんと会った。誠実で柔らかな笑顔の方だった。「どうしてこのホテルを予約したの?」と、質問を受けた。日本人は、有名な外資系ホテルに泊まる方が多いので参考にしたかったとのこと。外資系のホテルは、クアラルンプールでは比較的安く泊まれて日本人に人気だ。私は出発前にできる限り調べた上でマレー資本の「EQ Kuala Lampur」を選んだ。Namikoさんに「露」の話しをした。「オーナーは日本が大好きなんです。」その通り、このホテル内には高級和食レストラン「勘八」がある。「オーナーは、露に興味を示すと思います。」とNamikoさんは言う。それならば、オーナーに渡してほしいと、露を1本Namikoさんに託した。
翌日、ホテルのオーナーのDONALD LIMさんに会えることになった。意気投合して2時間余り話した。中華系マレー人の彼はクアラルンプールの他にもベトナムにホテルを2つ経営している。「スタッフが試飲して良ければ、あなたのジンを扱ってもいい」と穏やかな笑顔で語った。異国の地で、鎌倉クラフトジンが誰かのグラスに注がれる光景を思い浮かべる。旅は時に、思いがけない縁を運んでくる

EQ Kuala Lampurの最上階の51階には評判のBAR「Sky51」と「Blue at EQ」がある。夜になるとジャズの生演奏が始まり、高層ビル群の灯りがグラスの中で揺れる。若者たちは笑い声を交わしながら、スマートフォンを構え夜景を背に写真を撮る。ここでは時間がゆっくりと流れているように感じた。旅の疲れも、仕事の緊張も、音楽とともに遠くに消えていった。

今夜もまた、EQ Kuala LampurのBARに音楽が流れている。そのリズムに合わせ、静かにグラスを傾けた。

