酒場紀行 Vol.15  | クラフトジン露(つゆ)

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酒場紀行 Vol.15 

横浜・馬車道 小料理「ほおづき」

 横浜・馬車道の路地を一本入っただけで、街の喧騒がふっと遠のく。提灯の淡い灯りに導かれ「ほおづき」の引き戸を開けると、ゆっくりと時間が流れはじめる。常連たちが肩の力を抜き、静かに盃を傾けるこの店には、女将の志保さんの空気感がそのまま宿っている。

 今でこそ凛とした所作が印象的な“女将”だが、11年前の彼女を知る人は誰も想像していなかっただろう。著者もその一人だ。志保さんは、仲間と関内の街を飲み歩くグループ「くるくる関内」で飲み歩いていたどこにでもいる“お酒が好きな女性”だった。一代目の女将が切り盛りしていた「ほおづき」にも、常連として時々顔を出す程度だった。まさか自分があのカウンターの内側に立つ日が来るなど、夢にも思っていなかった。しかし、運命はふとした拍子に向こうからやってくる。

 オープンから3年目、初代女将が家庭の事情で店を離れることになった。ほおづきは、神奈川県内の8蔵の地酒を揃えるこだわりの小料理屋として知られていたが、後継がいなければその灯は消えてしまう。そこで白羽の矢が立ったのが、志保さんだった。もちろん飲食の経験はゼロ。カウンターの向こう側の世界は、手際も段取りも求められる未知の世界。「くるくる関内」の仲間は、総研や金融、コンサルなどの仲間も多かった。数えきれないほどのアドバイスを受けたが、それがまた難しい話ばかりで、逆に不安ばかり募ったという。「本当に私にできるのだろうか…」迷いも怖さもあった。だが、その奥にひとつだけ揺るがない思いがあった。「この店を無くしたく無い」——その想いだけが背中を押した。そして志保さんは二代目の女将としてカウンターに立つことを決意する。

 志保さんが女将になってまず決めたのは、「初代のこだわりを絶やさない」ということだった。ほおづきは開店当初から神奈川県内の酒蔵の日本酒を中心に扱ってきた店。その想いを引き継ぐなら——どうせなら神奈川県内の酒蔵を全部揃えたい。志保さんの中でその気持ちは自然に膨らんでいった。そして今、店には県内13蔵の日本酒がずらりと顔を揃える。これからの季節はお燗も良い。カウンターには、お燗器が埋め込まれている。お燗器の湯気がほのかに立ち上るカウンター越しに、女将の歩んできた年月が静かに積み重なっている。

 休日になると志保さんは県内の酒蔵を訪ね、蔵元や杜氏たちと直接言葉を交わす。酒づくりの背景、その土地の風、仕込みの苦労や味のニュアンス——。その一つひとつを、お客様へまっすぐ届けるためだ。「つくり手の想いまで伝えたいんです」志保さんはそう言って、酒をそっと丁寧に注ぐ。そして、来年2026年5月で11周年を迎える。もうすっかり「ほおづき」の顔だ。

 料理を任されているのは、信頼厚い板長の栗林さん。日本酒に寄り添うための料理を探求し、季節の走りを取り入れた一皿はどれも評判が良い。「栗林さんがいてくれるから、私は安心してお酒に集中できるんです」と志保さんは微笑む。

 横浜へ出張する際、必ず立ち寄ってくれる常連も多い。口コミだけで広がっていくお店の輪を、志保さんは心から誇りに思っている。「常連のお客様が誰かを連れて来て、そのお客様がまた誰かを連れて来る。それが本当に嬉しいんです」——そんな志保さんが、もうひとつ嬉しいことを言ってくれた。

 日本酒が主役の店でありながら、「鎌倉クラフトジン露も、ぜひお店に置きたいんです。だって、神奈川のクラフトジンですから」。日本酒の世界を深く愛しながらも、新しいものに心を開き続ける。その柔軟さこそが、ほおづきが11年もの間、静かに愛され続けてきた理由なのだろう。

 今夜も、志保さんの「いらっしゃいませ」の声が、訪れる人々をやさしく包み込んでいく。

小料理 ほおづき https://www.facebook.com/hodukiyokohama/?locale=ja_JP

この記事の著者

秋山 栄二

はじめまして。新聞社を退職後、ラジオ局の役員を経て、2024年11月に株式会社風雅を設立しました。主な事業は酒類販売小売業、広告代理店業です。趣味は旅行と食べ歩き。おいしいお店やBAR情報など紹介していきますのでお楽しみに!

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