酒場紀行 Vol.21 | クラフトジン露(つゆ)

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酒場紀行 Vol.21

バー・シーガーディアンⅢ

ホテルニューグランドとフェニックスの物語

 1927(昭和2)年開業のホテルニューグランド。
その誕生の背景には、1923(大正12)年9月1日の関東大震災がある。壊滅的な被害を受けた横浜の街にとって、このホテルの開業は復興を象徴する出来事だった。震災で消失した名門グランドホテルの名を継ぎ、「ニューグランド」と名付けられたこのホテルには、横浜再生への願いが込められている。ホテルの象徴であるフェニックス(不死鳥)は、まさにその思いの象徴。焼け野原から再び立ち上がる横浜の姿を重ねたものだ。そして、開業と同時に誕生したのがBAR「シーガーディアン」である。

 当初のシーガーディアンは、海岸通りに面した場所、現在の「そごうショップ」付近にあり、ホテルの入口を通らず直接入店できる造りだったという。「シーガーディアン」とは「海の守り神」。当時、横浜港に入港する多くの客船には本格的なバーが備えられており、シーガーディアンはその客船バーをモデルに誕生した。船上で磨かれたバーテンダー技術やサービス精神を受け継いだため、陸のバーとはどこか違う独特の空気が今も残る。初代シーガーディアンは1927年から1991年まで続いたが、ニューグランドタワー建設に伴うリニューアルでホテル奥へ移転し、「シーガーディアンⅡ」となった。そして現在、そごう横浜店内にあるのが「シーガーディアンⅢ」である。(ホテルニューグランド・ホームページから)

 横浜駅東口から人の流れに乗ってそごう横浜店へ入る。賑やかな百貨店のデパ地下を進みながらエスカレーターで10階へ。店の前に立つと、そこだけ空気が少し静かになる。扉の向こうに、客船のサロンを思わせる落ち着いた空間。席に案内され、窓の外を見ると、高層マンションの灯りが横浜港の水面に穏やかに光っている。百貨店の中にいることを忘れそうな眺めだ。ふと空に目をやると羽田空港にアプローチする飛行機の光が横浜の夜を横切っていく。

 まずは、いつものマティーニをお願いする。
ほどなくして差し出されたグラスは端正で、余計な装飾がない。ひと口含むと、冷たさの奥に凛とした輪郭が立ち上がる。長い年月、客船文化を受け継いできたバーのプライドが、その一杯に静かに宿っているように思えた。店内に目をやると、ビアサーバーの前に飾られた絵皿が目に入る。初代シーガーディアンを懐かしんだ客が制作した記念の一枚だという。港町のバーは、ただ酒を出す場所ではなく、人の記憶を重ねていく場所なのだと改めて感じる。

 2杯目のグラスを傾けながら窓の外を見る。遠くに見える港の光と高層マンションの灯りが重なる。震災から復興した街に生まれ、海とともに歩んできたバーの時間が、この夜の静けさの中に確かに続いている。もう一口飲み、グラスを置く。ここは百貨店の中のバーでありながら、確かに横浜港につながっている。そんな不思議な感覚を胸に、ゆっくりと夜を味わった。

バー・シーガーディアンⅢ  https://www.hotel-newgrand.co.jp/sea-guardian-3/


この記事の著者

秋山 栄二

はじめまして。新聞社を退職後、ラジオ局の役員を経て、2024年11月に株式会社風雅を設立しました。主な事業は酒類販売小売業、広告代理店業です。趣味は旅行と食べ歩き。おいしいお店やBAR情報など紹介していきますのでお楽しみに!

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