酒場紀行 vol.4
銀座・ロックフィッシュ
銀座に「ロックフィッシュ」というバーがある。私にとっては、新聞社時代を思い出させる店だ。広告代理店勤務の先輩と良く待ち合わせをした。仕事を終え、夜の銀座に吸い寄せられるように歩き、待ち合わせや帰宅の途中には必ずこのカウンターに立つと落ち着けたものだ。

カウンターの向こうに立つのは、オーナーバーテンダーの間口さん。大阪のサンボアで修業を積み、東京・銀座で自らの店を構えた。驚くのはその働きぶりで、開店当初は365日休みなし。定休日を気にすることもなくお店に行くことができた。間口さんは、お店で寝泊まりしてたこともある。そんな時は、江戸時代(1863年)から創業している銀座・金春湯で一汗流してからカウンターに立つ。酒場の世界に本気で身を投じるとはこういうことかと、ただただ感心した記憶がある。
開店した頃はまだお客も少なく、暇を見つけては神保町の古本屋に通っていたそうだ。特に「食」「酒」の本を中心に買い集め、やがてその本たちはカウンターの端から端まで埋め尽くすほどになった。今も一人でふらりと訪れても、本がずらりと並ぶ。酒を飲みに行っているはずなのに、気がつくと背表紙を眺めて過ごすこともあったくらいだ。新聞も朝夕刊各紙が置かれている。グラスを傾けながら活字に親しむ時間は、ここならではの贅沢だ。

この店の名物といえば、やはりハイボールだろう。「世界一美味しいハイボールを飲みに行こう!」と、言っては同僚を良く連れ出した。ひと口含むと、シュワッと軽やかで、スッと身体に染み入っていく。銀座の夜の喧騒も、その瞬間だけは遠のいてしまう。あの一杯を味わうために、著者は何度も通った。
さらに、ロックフィッシュはただ酒を出すだけの店ではない。間口さんは「缶つま」の提案や、甘いつまみの作り方を本にまとめ、多くの著書を世に送り出している。バーのカウンターから始まった知恵が、家庭の食卓にまで届いているのだ。

銀座・ロックフィッシュ。ここは、酒を楽しむ場所であると同時に、人と人を結ぶ新しい交流の場のような存在だった。酒場には人と文化と知恵が集まる。
銀座ロックフィッシュ https://maguchikazunari.jp