酒場紀行 Vol.18
ヘルシンキ後編 ― 世界遺産の街 タリンへ
2024年6月 いつものように、ヘルシンキ中央駅構内の Minuuttibaari に腰を下ろしていた。列車の発着を知らせるアナウンスと、人々の行き交う気配。旅の途中にある酒場には、なぜか心を落ち着かせる力がある。グラスを傾けながら、ふと頭に浮かんだ。――隣国のエストニア・タリンへ行けるじゃないか。
ヘルシンキからエストニアの首都タリンへは、フェリーで約2時間。早朝便に乗れば日帰りもできる。「行ってみよう」そう思った瞬間、ビール片手にスマートフォンを取り出し、その場でフェリーを予約した。予約したフェリーの出航はターミナル2だった。翌朝、ホテル出てトラムを乗り継いでフェリー埠頭のターミナル2へ向かう。思いのほか早く着いてしまったた。まだターミナルは開いていなかった。静かな埠頭を歩く。潮の匂いと冷たい風。旅の始まりに、こういう時間は悪くない。

やがて、巨大なフェリーが港に姿を現した。想像以上に大きい。船内に入ると、レストランやバー、免税店が多く並び、まるで小さな街のようだ。


移動そのものが、すでに旅になっている。船内で、フィンランド人の若者と自然に言葉を交わした。ビールをきっかけにした、たわいもない会話。
フェリーはバルト海を越え、世界遺産の街 エストニア・タリン に到着する。
城壁に囲まれた旧市街は、中世の面影をそのまま残し、石畳の道がどこまでも続く。歩いているだけで楽しい。路地を曲がるたびに現れる塔、教会、広場。そして、行き交う人々。なかでも、タリンの女性たちは印象的な美しさを放っていた。街並みと同じく、どこか凛としている。

時間を忘れて歩き、カフェで一息つき、また歩く。
帰りのフェリーの時間まで、存分にこの街を味わった。
ところで、フィンランドは1919年から1932年まで禁酒法が施行されていたことはあまり知られていない。現在でもアルコール度数6%以上の酒類は国営の専売公社「アルコ」でしか購入できない。しかし、酒類の税率が高く、価格が高い。そのため、フィンランド人は、海上が免税であることから、フェリー客船で飲み、隣国のエストニアまで買い出しに出る。(物語 フィンランドの歴史 中公新書より)この日も、帰りのフェリーは、買い出しをした酒類を大量にカートに乗せて運ぶフィンランド人がたくさんいた。

夜、再びヘルシンキへ戻る。きっとまた Minuuttibaari に立ち寄るだろう。だが、この日のビールは、いつもよりバルト海の風味が混じっている予感がする。
翌日、ヘルシンキのマーケット広場からフェリーで約15分の世界遺産の海上要塞「スオメンリンナ要塞」にも足を運んだ。小雨の中、島に上陸して一人で歩く。ここが本当に世界遺産なのか・・・あまり人はいない。迷子になりそうだった。寒さで早足でまわり戻ることにした。
タリン行きのフェリーで出会ったフインランド人の若者が日本を訪れることになった。2024年12月、東京・銀座で再会することになるとは、この時は思いもしなかった。旅がつなぐ縁とは、不思議なものだ。

