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酒場紀行

酒場紀行 vol.25 Hyatt Centric Ginza Tokyo

銀座・並木通り、リンデンの香りと露

 銀座には、それぞれの通りに個性がある。中央通りの街路樹はカツラがあり、外堀通りには柳が揺れる。そして並木通りには、リンデンバウム(西洋菩提樹)が静かに並ぶ。花が咲くころ、ほのかな香りが漂うと言うこの通りには、どこか旅人をやさしく迎える空気がある。銀座は通りごとにそれぞれの街路樹が植えられている。

 その並木通りに面して建つ「Hyatt Centric Ginza Tokyo」(ハイアット セントリック 銀座 東京)を訪ねた。迎えてくださったのは、開業前からこのホテルとともに歩んできた総支配人、内山渡教さん。2018年1月の開業から今年で8周年を迎えた。宿泊客のほぼすべては海外からの旅人だと言う。とりわけアメリカからのゲストが多い。目的はビジネスより、銀座での買い物や食を楽しむレジャー利用。しかもリピーターが多い。その理由は、内山さんの言葉にあった。「自分の家や別荘のように使ってほしい」話しぶりは穏やかで押しつけがましさがない。けれど、その言葉には芯がある。「格式より居心地」「緊張より解放」。朝食会場にはラフな装いで来てもいい――そんな何気ない言葉にも、旅人を迎える哲学がにじんでいた。話していて感じたのは、内山さんはホテルを運営しているのではなく、一つの「場」を育てている人なのだということだった。そして、ふと静かにこう語られた。「できれば、10周年を見届けたい」その一言に、長く場を守る人だけが持つ熱を感じた。その内山さんが育ててきた一つに3階のBAR NAMIKI667がある。その名は銀座6丁目6番7号に由来する。街の座標をそのまま名にしたバーだ。並木通りに寄り添うその場所で、露は供されている。ストレート、ロックの他、ソーダ、トニック、ソニックと楽しめる。自由でありながら端正な、その提供スタイルはこのホテルらしい。仕上げにライムピールを軽く捻り、香りを立たせることを僭越ながら提案した。BAR NAMIKI667は、ゲストにとって止まり木のような気軽に立ち寄れる場所を目指していきたいと内山さんは熱く語る。グラスに立ち上る柑橘の香り。それは、並木通りに漂うリンデンの香りと、どこか呼応しているようにも感じられた。街にも、グラスにも、香りは宿る。

 今回、この出会いをつないでくださったのは、二十年来のお付き合いになる高木郁帆 さんである。昔から変わらぬ美人だ。銀座西並木通り会の副会長でもある高木さんは、この街を知り、人を知る方だ。華やかな銀座にあって気取りがなく、けれど人と人を結ぶ感覚を自然に持っている。こういう人がいるから、街は豊かになるのかもしれない。

 内山さんへ露を託した後、高木さんは「もう少し銀座を歩きましょう」と、三軒のバーへ案内してくださった。「Bar Reir」「Bar Sign」「Bar Kuro & Friendy」それぞれに露を一本ずつ置き、その場で一杯ずついただいて、また次の扉へ向かう。長居をするでもなく、騒ぐでもなく、一本の露を託し、一杯の余韻を受け取り、また街を歩く。「銀座は長居は禁物」先輩からの教えを思い出した。その所作が、どこか銀座らしかった。どの店でも、紹介というより信頼の輪の中に招き入れていただくような心地があった。その夜、私は銀座のバーを巡ったというより、高木さんの知る銀座を歩かせてもらったのだと思う。街は建物ではなく、人でできている。そんなことを、あらためて感じた夜だった。

 思えば、露という名そのものが鎌倉五山の浄智寺の禅の精神の一滴なら、その夜は一滴ずつ銀座に置いて歩いたようでもあった。並木通りには、リンデンの香りだけではなく、人の縁もまた静かに漂っていた。内山さんの静かな情熱。高木さんがつないでくれたご縁。そしてグラスに宿る露。

 銀座の夜には、そんな余韻がよく似合う。

この記事の著者

秋山 栄二

はじめまして。新聞社を退職後、ラジオ局の役員を経て、2024年11月に株式会社風雅を設立しました。主な事業は酒類販売小売業、広告代理店業です。趣味は旅行と食べ歩き。おいしいお店やBAR情報など紹介していきますのでお楽しみに!

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