酒場紀行 vol.28
鎌倉 松原庵 高輪・・・文化はスパイラルだ!
JR山手線・高輪ゲートウェイ駅。新しい街の物語が静かに立ち上がったこの場所に「鎌倉 松原庵 高輪」が暖簾を掲げた。出店先は「ニュウマン高輪 MIMURE」。整然とした再開発の中にありながら、この街にはどこか「余白」がある。こんな広い土地が港区にあることに驚く。数年後、最高速度500kmのリニアモーターカーがここから西へ動き出す。品川ー新大阪を現在の2時間20分の半分以下の67分で結ぶ予定だ。

オープン初日、老舗酒問屋の株式会社折原の役員の方々と一緒に訪れた。松原庵さんから折原さんへ「鎌倉クラフトジン露」の注文が入りお届けする。新しい街に、新しい店が生まれ、そこにひとつの酒が迎え入れられる。その始まりに立ち会えたことは、とても嬉しい!

暖簾をくぐると、空気がやわらぐ。和の設えの中、蕎麦を打つ音が静かに響き、視線の先には職人の所作がある。ぬくもりのある空間。テーブル席、個室、そしてカウンター。どの席にも共通しているのは、「急がなくていい」という感覚だ。
ふらりと立ち寄り、酒と肴を重ね、最後に蕎麦で〆る。江戸から続く“蕎麦前”の文化が、この新しい街にも自然と息づき始めている。蕎麦を食べる前にお酒と肴を楽しみ、最後に冷たい蕎麦を手繰る。そして、長居をせず、さっと店を出るのが粋だ。銀座の飲み方と共通する。軽やかな喉越しと、やわらかな余韻。湘南の魚介や野菜を使った一品料理、海鮮のあられ揚げ。神奈川の地酒や全国の美酒。その流れの中に、静かに寄り添う一杯がある。グラスに注がれた「露」は、香りを主張しすぎることなく、料理が運ばれるあいだに、そっと余白をつなぐ。露は蕎麦との相性も良い。気づけば、もう一杯と手が伸びる。

それから、改めて訪れた二度目の来店。迎えてくれたのは、フォンス庵ブランドを統括する店長の草薙さん。その丁寧でやわらかな所作は、この店の空気そのもののようだった。少し前になるが、JRトレインTV Supported by YRBISUの『シェフの顔』(JR横須賀線車内)で平尾料理長がインタビューに答え、お店が紹介されていた。酒場は、料理や酒だけで完成するものではない。人の気配、空間、流れる時間。それらが重なり合い、記憶に残る一軒になる。

そして、二度目の来店の余韻を胸に、隣のビルの「MoN Takanawa: The Museum of Narratives」へ足を運んだ。屋上の足湯に身を委ねると、街の輪郭がやわらぐ。館内は随所に木を使い、滑らかな曲線が目をひく。世界最高の図書館に選ばれたことがあるヘルシンキ中央図書館「Oodi」を思わせる空間だ。随所に設えられた腰掛けの場所が、人それぞれの時間を受け止めている。
この場所が提示しているのは、「時間は直線ではない」という考え方だ。人の価値観や生き方は様々だ。変化しながらも、その本質は受け継がれ、時代や文化に合わせて、姿を変えていく。文化とは、保存されるものではなく、更新され続けるもの。それは螺旋のように、行きつ戻りつしながら、過去と未来をつなぎ、物語を運んでいく。その思想に触れたとき、ふと腑に落ちた。そうか、ヘルシンキ中央図書館「Oodi」の螺旋階段も「あらゆる人」「平等」を表現しているのだということを思い出した・・・!

江戸の“蕎麦屋酒”もまた、同じように、形を変えながら今に続いているのだと。松原庵で過ごした時間。酒と肴、そして蕎麦。そこに流れていたのは、過去から続く文化の延長であり、同時に、この街で新しく紡がれている時間でもあった。
そして、その流れの中に、静かに寄り添う一杯の「露」がある。鎌倉の禅寺の名水から生まれたその酒もまた、土地の記憶を受け継ぎながら、新しい場所で、新しい物語に溶け込んでいく。高輪ゲートウェイという新しい街で、過去と未来が交差し、文化が更新され続ける。その螺旋の中に、自分もまた、ささやかな一部としているのだろう。
https://www.newoman.jp/takanawa/floorguide/detail/?scd=003336
